生成AIはどの業務から始めるか|頻度×定型性で最初の1つを決める

最初の1業務は図では決まらない、という見出しと、右上だけを強調した頻度×定型性の2軸マトリクスを組み合わせた記事サムネイル

この記事でわかること

  • 開始地点は候補業務が複数挙がっている状態です。棚卸しが未了なら、選定より先に候補出しへ戻ります。
  • 「高頻度」の線は他社の件数を借りず、自社の分母(営業日数・担当者数・処理対象数)と数える単位を決めてから引きます。
  • 定型性は判断基準の文書有無・例外の割合・入力と出力の形式という3点で判定し、割れた場合の裁定者を先に指名しておきます。
  • 右上に複数残ったら、着手工数・データの所在・部署の合意・失敗時の影響範囲の順に当てて1つへ絞り、右上でも外す除外条件を別に持ちます。
  • 選ばなかった候補は落ちた判定と再評価時期を書いて経営会議の決定として記録し、確定した1業務は担当者・期限・判断材料を添えて工程分解へ渡します。
目次

結論

最初の1業務は、候補を発生頻度と定型性の2軸に置いて決めます。ただし候補の順位を動かすのは、図そのものではありません。自社の分母で「高頻度」の線を引くこと、定型かどうかの判定が割れたときの決着者を先に決めておくこと、右上に入っても外す除外条件を持つこと。この3つが、着手先を1つへ絞る側の手続きです。残る2つは、選ばなかった候補に再評価時期をつけて「当面やらない」と組織で宣言すること、確定した1業務を担当者と期限を添えて工程分解へ渡すことで、選定を決定として残す側にあたります。

候補が複数挙がったまま決まらないのは、判定の材料が足りないからではありません。判定の線を誰も引いていないためです。線がないまま、声の大きい部門の候補やたまたま話題に出た業務へ着手すると、成果が出なかったときに残るのは選び方への疑問ではなく「うちの業務に生成AIは合わない」という結論になります。二件目以降の提案は、その評価を覆すところから始めることになります。着手先を決める作業は、当てにいく業務を選ぶと同時に、この評価が生まれる経路をふさぐ作業でもあります。

選定を始める前に揃っている前提

選定の開始地点は、現場から候補業務が複数挙がっている状態です。「経理で何かできないか」「営業の資料作成が大変らしい」という粒度では、まだ判定にかけられません。候補ごとに、次の4点が同じ形式で揃っているかを先に確認します。

  • 一定期間の発生件数(期間と件数を対で記録する)
  • 担当者と担当部署(兼務なら実際に手を動かす人)
  • 入力と出力の形式(受け取る材料と、出す成果物の形)
  • 判断基準の文書有無(マニュアル・チェックリスト・規程のいずれかがあるか)

4点が埋まらない候補は、判定不能として一旦保留します。埋まらない理由が「誰も件数を数えたことがない」であれば、まず一定期間の記録を取るところからです。件数を持たない候補は、他の候補と同じ土俵に並べられません。

候補そのものが1〜2件しか挙がっていない、あるいは業務の輪郭がまだ曖昧な段階なら、取捨選択ではなく棚卸しから始めます。

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手順1|「高頻度」の閾値を自社の分母で引く

高頻度と言える件数は、業種でも規模でも変わります。他社の数字をそのまま借りれば、自社の実態と合わない線になるだけです。先に決めるのは分母で、その置き方ひとつで同じ業務が高頻度にも低頻度にも見えます。

分母の候補適する業務数え方の例
営業日数日次で発生する処理月間件数 ÷ 稼働営業日数
担当者数担当者ごとに独立して発生する処理月間件数 ÷ 実担当者数
処理対象数案件・顧客・物件に紐づく処理月間件数 ÷ 対象件数

分母を決めたら、数える単位を全候補で統一します。ある候補が「1日20件」、別の候補が「月120件」のままでは並べられません。日次・週次・月次のいずれかへ寄せて換算し直し、いちばん頻度の低い候補でも1以上の整数になる粒度を選ぶと扱いやすくなります。

閾値そのものは自社で決めます。週20件以上を高頻度とする、上位3分の1を高頻度とする、といった引き方はいずれも線の置き方の例であって、推奨値ではありません。候補を件数順に並べたとき、数字が大きく開く箇所へ線を置くと、後から「なぜそこか」を説明しやすくなります。

閾値を決めた会議で、引いた線の根拠を1行書き残してください。口頭で済ませると、後日「この業務も高頻度ではないか」と差し戻されたときに、線の位置から議論をやり直すことになります。

完了条件:全候補が同じ単位の件数を持ち、高頻度の線と、その線を引いた根拠が記録されている状態です。

手順2|定型性を判定し、割れたら決着させる

手順2の3条件と、満たした数に応じた判定区分の対応関係を示しています。
左に3つの判定条件、右に定型・準定型・非定型の3段の階段ブロックを置き、矢印で振り分けを示した図

定型性は、感覚で判定すると人によってずれます。次の3条件で候補ごとに答えを出し、判定の記録を残します。

  1. 判断基準が文書化されているか。マニュアル・チェックリスト・規程のいずれかに、迷ったときの判断が書かれていれば満たします。
  2. 例外の割合はどの程度か。100件のうち何件が通常手順から外れるかを、担当者の実感ではなく直近の実績で数えます。
  3. 入力と出力の形式が決まっているか。受け取る材料の形と、出す成果物の形が毎回同じなら満たします。

3条件すべてを満たせば定型、2つなら準定型、1つ以下なら非定型として扱います。

判定でつまずくのは、同じ業務を管理職が「定型だ」と言い、担当者が「例外だらけだ」と言う場面です。管理職は年間を通した業務の姿を見ており、担当者は直近で手を焼いた案件を見ているため、どちらの実感も間違ってはいません。意見を出し合うだけでは揃わないので、決着のつけ方を先に用意しておきます。

完了条件:全候補に定型/準定型/非定型の判定がつき、割れた候補については何件を数えて決着したかが記録されている状態です。

手順3|2軸へ配置し、右上が複数なら順に絞る

手順3で候補を置く4ゾーンの位置づけと、右上に複数残ったときに1つへ絞る流れを対応させています。
頻度と定型性を軸にした4象限の図で、右上の象限だけが枠で強調され、3つの点のうち1つが二重丸になっている

手順1の頻度と手順2の定型性を軸に取り、候補を4つのゾーンへ置きます。着手先の母集団になるのは右上(高頻度×定型)だけです。

ゾーン位置づけ扱い
右上:高頻度×定型着手候補手順4の除外条件へ進める
左上:低頻度×定型待機件数が伸びた時点で再評価
右下:高頻度×非定型分解対象工程を割ると定型部分が出る場合がある
左下:低頻度×非定型当面やらない手順6で宣言する

右上に2つ以上残ることは珍しくありません。同時に着手すると、限られた工数が分かれるうえ、うまくいかなかったときにどちらの条件が原因だったかも切り分けられなくなります。次の4基準を、この順に適用して1つへ絞ります。

  1. 着手までの工数:判断基準の文書が既にあり、材料がすぐ集まる候補を優先します。着手前の整備が長引くほど、判断材料が出てくる時期が遠のきます。
  2. データの所在:必要な材料が社内にあり、担当者が自分の権限で取り出せるか。他部署の承認や外部からの提供が要るものは後ろへ回します。
  3. 担当部署の合意:その部署が自部門の課題として認識しているか。引き受けていない部署に任せると、うまくいかなかった理由が手順ではなく道具へ向かいやすくなります。
  4. 失敗したときの影響範囲:うまくいかなかった場合の影響が部署内に収まるか。社外や他部署へ波及する候補は、最初の1件には向きません。

上から順に当て、その基準で差がつかなければ次へ進みます。順序を入れ替えると残る候補が変わるため、途中の基準から始めないでください。4基準を通しても並ぶ場合は、件数の多い方を採ります。

完了条件:右上の候補が1つに絞られ、落とした候補についてどの基準で落ちたかが書かれている状態です。

手順4|右上でも最初の着手先から外す条件

手順4の除外条件5項目を、右上ゾーンから外す判断として並べています。
5枚のカードにそれぞれ線画の記号とラベルを並べ、背後の薄い区画から外へ押し出す矢印を添えた図

頻度と定型性を満たしていても、最初の1件にすべきでない業務があります。生成AIに向かないという意味ではありません。社内の理解が固まっていない段階でつまずくと、その失敗が手順の見直しではなく方針の撤回へ結びつきやすいためです。次のいずれかに当たる候補は、右上から外します。

除外した業務は、着手をやめるのではなく行き先を変えます。1〜3に該当したものは、人の確認を必ず残す前提で運用を設計する対象として、AIに任せてはいけない業務の決め方の使わないリストと承認ゲートの検討へ回します。4に当たった業務は、扱える情報の範囲を確認したうえでの再判定です。5は、変更が完了する時期をそのまま再評価時期として記録します。

除外の結果、右上に残る候補が0になることもあります。自社に適用先がないという判断には直結しません。まずは候補の粒度を疑うところから立て直します。

完了条件:右上の全候補に除外条件の当否がつき、除外した候補それぞれに行き先が書かれている状態です。

手順5|右上が空だったときの分岐

右上が空になる原因の多くは、候補を業務まるごとの単位で挙げていることにあります。粒度が大きいと、定型の工程を含んでいても全体としては非定型に見えます。ここでの判断は2つに分かれます。

粒度を分解し直す道を選ぶのは、その業務のなかに繰り返し同じ形で発生する工程が見えている場合です。たとえば右下(高頻度×非定型)の業務を工程単位へ割ると、材料集め・下書き・確認・清書のうち、下書きだけが定型として取り出せることがあります。分解の単位は「担当者が一続きで手を動かす最小のかたまり」です。割り直した工程を候補として登録し、手順1から数え直します。

分解しても定型工程が出てこない場合、あるいは工程は定型でもその成果物を誰も使っていない場合は、廃止を先に検討する道へ移ります。誰も開いていない資料の作成や、別の台帳と二重に記録している作業は、速く処理できるようにするより、やめる方が早く効きます。分かれ目は、成果物の受け手を名指しできるかどうかです。受け手を挙げられない業務は、AIを当てる前にその業務をやめられないかで扱う廃止・統合の比較へ回します。

両方を試しても着手先が出ないときは、分母か閾値が実態と合っていない可能性があります。閾値を1段緩めて再配置し、それでも空のままなら、この時期に生成AIへ予算を割く前提そのものを見直す材料になります。

完了条件:分解し直した候補が再配置されているか、廃止検討へ回した業務が特定されているか、どちらの結論も出ない場合はその旨と理由が記録されている状態です。

手順6|選ばなかった候補を「当面やらない」と宣言する

落とした候補を放置すると、提案した部署では「検討中」の扱いのまま残ります。時間が経ってから「あの件はどうなったか」と持ち出されるたびに、選定の議論を最初からやり直すことになります。落選を決定として明文化するのは、現場の期待を切るためではなく、再評価の時期を約束するためです。

宣言に書く項目は4つです。

項目書き方
対象業務候補として挙がった名称のまま記載する
落ちた判定頻度/定型性/絞り込み基準/除外条件のどれで落ちたか
再評価時期「次期予算編成時」など具体的な時点
承認者決定した会議体と承認者名

再評価時期は、期間ではなく時点で書きます。「半年後」ではなく「次の上期方針を決める会議」と書けば、その会議の準備段階で議題に上げられます。

落ちた判定を併記しておくと、再評価で見る観点も同時に決まります。頻度で落ちた候補なら件数が伸びたかどうか、除外条件で落ちた候補ならその条件が解消したかどうかを確かめれば足り、判定を最初からやり直さずに済みます。

伝達は、選定した1業務の発表と同じ場で、同じ資料に載せます。選ばれた業務だけを発表すると、提案した部署には結果が届かず、検討されたのかどうかも分かりません。落選理由を書いた1枚が残っていれば、次の候補出しで同じ理由に当たる業務を避けられます。

完了条件:選ばなかった全候補に落ちた判定と再評価時期がつき、経営会議の決定として議事に記録され、提案元の部署へ伝達された状態です。

手順7|確定した1業務を工程分解へ渡す

選定が終わっても、業務そのものはまだ何も変わっていません。ここで「では進めてください」と口頭で渡すと、受け取った側は現状把握からやり直します。渡すのは業務名ではなく、判定に使った材料一式です。

  • 渡す相手:その業務を実際に処理している担当者と、部署の責任者の2名を指名します。責任者だけでは実態が入らず、担当者だけでは工程の変更を決められません。
  • 期限:工程分解の提出期限を日付で指定します。他業務と並行する前提で、2〜4週間を目安に、自社の繁忙期を避けて置きます。
  • 添える材料:手順1で数えた件数と期間、担当者と担当部署、入力と出力の形式、判断基準の文書、そして手順3でその候補を選んだ理由。
  • 期待する完了条件:どこまで書けたら分解が終わったと見なすかを、渡す側が先に定義します。

工程分解そのものは、現状のフローを工程単位へ割り、AI・システム・人・廃止のどれに振り分けるかを決める別の作業です。

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工程分解の後に来る検証設計や合否基準の置き方は、生成AIのスモールスタートの範囲です。

完了条件:担当者2名と提出期限が指名され、判定材料一式が渡され、分解の完了条件が合意されている状態です。

経営会議に配る1枚へ書く項目

選定の各段階で決めたことを、会議で配れる1枚へ転記します。項目を落とすと、後日の説明で「なぜその業務なのか」に答えられなくなります。

記載欄書く内容
判定の前提分母(営業日数・担当者数・処理対象数のどれか)と数えた単位、対象期間
頻度の閾値引いた線の数値と、その線にした根拠
2軸の配置結果候補名と4ゾーンのどこに入ったか
除外した業務業務名/該当した除外条件/回した先
確定した1業務業務名/絞り込み4基準のどれで残ったか
当面やらない宣言業務名/落ちた判定/再評価時期/承認者
受け渡し担当者2名/提出期限/分解の完了条件

この1枚があると、着手先の選び方を誤ったときに、どの判定を見誤ったのかを特定できます。閾値の置き方が実態と違ったのか、定型性を楽観側で判定したのか、除外条件を1つ持っていなかったのか。原因を判定の段階まで戻せれば、「生成AIは自社に合わない」という一般化した結論へ飛ばずに済みます。

手順の正しさが成果を保証するわけではありません。それでも、次の判断をやり直せる形で記録は残せます。

法人AI研修で支援できること

着手業務が確定した後は、その業務を担当者が自分で回せる状態にする段階へ移ります。当社の法人AI研修は、Claude・ChatGPT・Geminiなどの生成AIを自社の業務課題に合わせて学ぶ構成で、4レベル×部門別のカリキュラムを組み合わせ、選んだ業務課題の題材化から成果物の実装、研修後の定着支援まで伴走します。

生成AI業務プロセス適用研修では、自部門の実業務を棚卸ししたうえで生成AIを組み込んだワークフローを設計し、研修内で動く成果物まで作ります。研修後アンケートでは、80%以上の受講者が業務でAIを活用しています。対象人数・レベル・題材によって設計が変わるため、費用は個別のお見積りです。初回のヒアリングは無料で承っています。

候補業務が1つしか挙がっていない場合はどうすればよいですか?

比較対象がない状態で着手すると、その業務を選んだ理由を説明できません。候補が1つでも、手順1と手順2の判定は通してください。頻度が低い、または非定型と出た時点で、その1件に予算を割く判断は保留になります。並べて比べられる候補が揃うまでは、選定ではなく候補出しの段階です。

声の大きい部門から挙がった候補を落とすと、協力が得られなくなりませんか?

落とす理由を人ではなく判定で示せるかどうかで、受け取られ方が変わります。「頻度は基準を満たしたが、材料を他部署の承認なしに取り出せないため今回は見送る」というように、どの基準で落ちたかを具体的に伝えます。あわせて再評価時期を約束すれば、検討の対象から外れたわけではないことも伝わります。落選理由を書いた1枚を選定結果と同じ場で配れば、後から個別に説明して回る手間も減ります。

経営側が特定の業務を最初にやると指名してきた場合はどう扱いますか?

指名された業務も1つの候補として、他の候補と同じ手順1〜4に通します。判定を通ったうえで選ばれるなら、そのまま着手先にして差し支えありません。除外条件に当たった場合は、どの条件に当たったかを示して判断を仰ぎます。判定を飛ばして着手すると、成果が出なかったときに手順ではなく生成AIそのものへの評価として社内へ残りやすいため、指名の有無にかかわらず判定の記録は残してください。

「当面やらない」とした候補は、どの周期で再評価すればよいですか?

一律の周期を決めるより、落ちた判定ごとに契機を設定する方が実務に合います。頻度で落ちた候補は、件数が変わる時期、たとえば予算編成や組織改編に合わせて見ます。除外条件で落ちた候補は、その条件が解消した時点が契機です。システム更改の予定で外した候補なら、更改の完了時期がそのまま再評価時期になります。

2軸の右上に入った業務なら、成果が出ると考えてよいですか?

右上への配置は、着手先の母集団に入るという意味であって、成果の見込みを示すものではありません。頻度は効果が出た場合に量が積み上がる条件、定型性は手順を安定させやすい条件を見ているだけです。実際に効果が出るかどうかは、工程分解のあとに設計する検証と、その合否基準で確かめる領域になります。

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この記事の監修者

AI研修講師・AI活用コンサルタントの青木徹

AI研修講師 / AI活用コンサルタント

青木 徹

AIを実際の業務成果につなげるための支援を行っています。

立命館大学大学院修了後、日本IBMに入社。製造業・海運業などの企業に対し、業務変革支援やテックリードとしてのシステム開発に携わり、企業のDX戦略を推進。その後、複数のAI・SaaSプロダクトを企画段階から立ち上げ、上場企業を中心に100社以上のAI活用・DXを支援。現在は、法人向けのAI研修や生成AI導入支援、AI顧問などを通じて、AIを実際の業務成果につなげるための支援を行っている。専門領域は、生成AIを活用した業務効率化、企業へのAI導入、AI・SaaSプロダクト開発、DX推進。専門的な内容を分かりやすく伝え、参加者が研修後すぐに実務で活用できる、実践的な研修を大切にしている。