AI活用のアイデアが出ないなら業務フローを書く|現状・仕分け・導入後の3枚

この記事でわかること
- 1枚目は、AIを意識せず、現場で実際に行っている作業を最小工程まで分解します
- Noは工程の識別番号として固定し、後で廃止・統合しても元の番号を追えるようにします
- 2枚目では「不要なら廃止」「固定ルールならシステム」「文章・検索・下書きならAI」「責任ある判断は人」の順で判定します
- 3枚目は別シートに作り、AIの直後には確認者、失敗時には例外・差し戻し先を必ず置きます
- 部署単位で同じ方法を繰り返すと、派手な1事例ではなく、既存業務全体を網羅した導入候補一覧になります
目次
結論
AI活用のアイデアが出ないときは、AIの事例を追加で探す前に、自社の業務をExcelへ最小工程単位で書き出します。ここでいう最小工程とは、「見積書を作る」のようなまとまりではありません。「依頼メールを開く」「案件フォルダを作る」「添付仕様書を保存する」「顧客名と数量を台帳へ転記する」のように、誰が、何を使い、何をするかを一つの動詞で言える単位です。
当社では、次の3枚を別シートで作ります。
- 現状業務の棚卸し:いま行っている作業を、業務大区分・中区分・小区分から最小工程まで漏れなく並べる
- AI・システム適用判定:各行を、廃止・システム・AI・人・組み合わせのどれで処理するか決める
- 導入後業務フロー:なくす工程、まとめる工程、新しく入る確認工程を反映し、入力・出力・例外処理まで書く
この「現状・仕分け・導入後の3枚」は、単なる作業一覧ではありません。2枚目でAI・システム・人・廃止を決め、3枚目で確認者と例外処理まで置くことで、導入判断から実装後の運用までを一続きにします。
この順で作ると、「生成AIを導入したいが、何に使えばよいか分からない」という相談が、「現状No.8〜10の検索・転記をAIへ移し、No.16の前に人の確認を置く」という実装可能な話へ変わります。現状フロー表・工程の仕分け・導入後フローの3枚は、アイデア出しの資料ではなく、導入範囲を決める設計図です。
帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」では、生成AIの課題として「活用すべき業務の範囲」が40.0%に達しています。PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」でも、日本企業では活用・推進の広がりに比べ、期待を大きく上回る効果を得た企業は限られます。ツールの導入と、業務工程への組み込みは別の作業です。
以下では、架空の「見積作成業務」を、当社で使っているExcel雛形に記入する形で具体化します。実在の顧客情報や社内データは使っていません。
準備|棚卸しの範囲と進め方を決める
最終的な目的は既存業務を網羅することですが、最初から全社一斉に書かせると粒度が揃いません。まず1部署・1業務で書き方を合わせ、その見本を使って部署内、隣接部署、全社へ広げます。
最初の対象は3条件で決める
3条件を当てる順序は、頻度、関与人数、手戻りです。
- 頻度:毎日、毎週、案件ごとなど、繰り返し発生するか
- 関与人数:複数の担当者、部署、システムをまたぐか
- 手戻り:確認待ち、差し戻し、転記ミス、探す時間が発生しているか
たとえば「見積作成」は、案件ごとに発生し、営業担当・営業事務・営業課長・営業部長が関わり、検索・転記・承認待ちが含まれます。棚卸しの書き方を固める最初の題材に向いています。
一方、年に1回しか発生せず、1人が10分で終える業務から始めても、工程の分解方法や導入効果を検証しにくくなります。最初の1業務は頻度と受け渡しがあるものを選び、書き方が固まったら、同じ雛形で残りの業務も順番に棚卸しします。
聞き取りと判定を同じ場で行わない
現状を聞く場では、AIやシステムの話をしません。「ここはAIでできそうですね」と言った瞬間から、現場は現在の作業ではなく、あるべき姿を話し始めるためです。
会議は次の3回に分けます。
- 第1回:現状確認。実務担当者が直近案件を画面で再現し、別の人がExcelへ記入する
- 第2回:仕分け。実務担当者、業務責任者、システム担当者でAI・システム・人・廃止を判定する
- 第3回:導入後設計。実装担当者も加え、入力・出力・確認者・例外処理を書き込む
現状確認には、業務を最も多く回している担当者と、その成果物を受け取る人を参加させます。管理職だけでは、マニュアルにない保存、転記、照会、待ち時間が抜けます。
1枚目|現状フロー表を最小工程まで書く
当社の雛形は、No、業務大区分、業務中区分、業務小区分、担当者(誰が)、業務名(何を)、頻度、概要、備考・課題で構成しています。1行に情報を詰め込むのではなく、1行を一つの作業または判断に限定することがポイントです。
雛形の各列に何を書くか
| 列 | 書く内容 | 見積作成の例 |
|---|---|---|
| No | 現状工程の固定番号。後のシートでも参照する | 4 |
| 業務大区分 | 部門やバリューチェーンの大分類 | 営業 |
| 業務中区分 | 一連の業務名 | 見積作成 |
| 業務小区分 | 工程を束ねる段階 | 案件登録 |
| 担当者(誰が) | 実際に手を動かす役割・部署・仕組み | 営業担当 |
| 業務名(何を) | 一つの動詞で表せる最小工程 | 顧客名・品目・数量・納期を案件台帳へ転記する |
| 頻度 | 日次・週次・月次・案件ごと・該当時 | 案件ごと |
| 概要 | 入力、使用ツール、処理、出力 | メール本文と添付から4項目をExcelへ入力する |
| 備考・課題 | 待ち、例外、手戻り、ミス、属人化 | 転記ミス・表記揺れがある |
大区分・中区分・小区分は、会社の業務体系を整理するための階層です。AIの適用可否を判断するのは、さらに細かい「業務名」の行です。
- 大区分:営業
- 中区分:見積作成
- 小区分:類似案件検索
- 最小工程:検索キーワードを決める/過去見積フォルダを検索する/検索結果から類似見積を3件開く
「類似案件を調べる」と1行にまとめると、検索語を考える属人作業、ファイルを探す作業、候補を読む作業が混ざります。分けておけば、後の仕分けで「検索語を人が考える工程は廃止」「意味検索はAI」「候補の妥当性確認は人」と別々に判断できます。
行を割る基準は「実装先が変わり得るか」
行を割る3点として、担当者が変わる、システムが変わる、判断が入る、は最低限の基準です。最も細かい粒度で棚卸しする場合は、さらに次のどれかが変われば行を分けます。
- 動詞が変わる:開く、保存する、転記する、確認する、送信する
- 入力が変わる:メール本文、添付仕様書、過去見積、原価データ
- 出力が変わる:案件フォルダ、案件台帳、比較表、見積書PDF
- 使用する画面やシステムが変わる:メール、共有フォルダ、Excel、基幹システム
- 自動化の方法が変わる:固定ルール、生成AI、人の判断
- エラー時の戻り先が変わる
たとえば、次の書き方では粗すぎます。
見積依頼を受け、過去案件を調べ、単価を決めて見積書を作成する
これを雛形では、少なくとも次のように分けます。
- 顧客から届いた見積依頼メールを開く
- 案件番号のフォルダを新規作成する
- メールの添付仕様書を案件フォルダへ保存する
- 顧客名・品目・数量・納期を案件台帳へ転記する
- 案件台帳の必須項目が埋まっているか確認する
- 不足項目を顧客へメールで問い合わせる
- 類似案件を探す検索キーワードを決める
- 過去見積フォルダをキーワード検索する
- 検索結果から類似見積を3件開く
- 3件の単価・数量・納期・特記事項を比較表へ転記する
「ファイルを開く」を必ず独立させる、という意味ではありません。単なるクリックで終わり、前後で担当・入力・出力・実装方法が変わらないなら同じ行でも構いません。ただし、開いた後に人が内容を読み、候補を選ぶなら、その読解・選択は独立した工程です。迷った場合は細かく分けてください。後で統合するほうが、抜けた工程を聞き直すより簡単です。
雛形へ記入した現状フローの例
次の画像は、実際の雛形へ架空の見積作成業務を18工程で記入したものです。18行は上限ではありません。部署全体を棚卸しすれば、数十行から数百行になることもあります。
この表では、営業担当が行う作業だけでも、メール確認、フォルダ作成、添付保存、台帳転記、必須確認、検索語の決定、過去見積検索、候補を開く、比較表への転記、原価検索、原価転記、単価決定に分けています。これだけ細かく書くと、同じ「営業担当の作業」でも、AI向き、システム向き、人が残すべき判断が混在していることが分かります。
現場から工程を引き出す質問
「業務フローを教えてください」と聞くと、現場は「依頼受付→見積作成→承認→送付」と答えがちです。直近の1案件を開いてもらい、操作の直後に次の質問をします。
- いま、何を受け取りましたか
- 最初に開いたメール、ファイル、画面は何ですか
- そこから、どの項目を読み取りましたか
- 読み取った内容を、どこへ入力・保存しましたか
- 次に誰へ渡しましたか。どの形式で渡しましたか
- 待ち時間が発生したのはどこですか
- 間違えたとき、どの工程まで戻りましたか
- 通常と違う案件では、何が増えますか
- その作業は、なぜ必要だと認識していますか
1案件を最後まで追った後、別の1案件について「先ほどと違った箇所だけ」を確認します。通常フローと例外フローを同時に一般化しようとすると、どちらも曖昧になります。
2枚目|AI・システム・人・廃止へ仕分ける
2枚目は、1枚目を複製して「AI・システム適用判定」という別シートを作ります。現状のNoと最小工程は残し、右側へ判定列を足します。元のシートへ直接色を塗ると、現在の事実と将来の案が混ざるため、必ず分けます。
AIとシステムを同じ箱に入れない
AIと従来システムは得意な処理が異なります。
| 選択肢 | 向いている工程 | 見積作成の例 |
|---|---|---|
| 廃止 | 出力を誰も使わない、後続工程と重複している | 検索キーワードを人が決める、原価を比較表へ再転記する |
| システム | 条件・入力・出力が固定され、同じ結果を再現できる | フォルダ作成、必須チェック、原価取得、帳票生成 |
| AI | 非定型の文章・文書を読み、探し、要約し、下書きする | メールから項目抽出、類似見積検索、照会文の下書き |
| 人 | 責任ある判断、例外判断、交渉、最終承認 | 提示単価の決定、社外提出前の確認、値引き承認 |
| 組み合わせ | AIやシステムの出力を人が確認して次へ進める | AI抽出→人確認→台帳登録、帳票生成→課長確認 |
固定ルールで処理できるフォルダ作成や金額条件による承認回付を、生成AIへ任せる必要はありません。AIを使うこと自体を目的にすると、単純な処理まで確率的な出力に変わり、かえって確認が増えます。
3問ではなく、4段階で判定する
3問を当てる順序を実務向けに広げ、各行を次の順で見ます。
- この工程は本当に必要か
- 出力を次の誰が使うか
- 同じ情報を別工程ですでに作っていないか
- 廃止して困る人と具体的な影響を説明できるか
- 固定ルールで処理できるか
- 条件分岐を「もし〜なら」で書けるか
- 入力欄と出力欄が決まっているか
- 同じ入力なら毎回同じ結果でよいか
- 文章・検索・要約・下書きが中心か
- メール、PDF、議事録、自由記述を読むか
- 表記揺れを含む文書から候補を探すか
- 最終版ではなく、人が直せる下書きか
- 人が負うべき責任や例外判断があるか
- 社外へそのまま出るか
- 金額、契約、人事、安全に影響するか
- 誤りを検知できる確認者が工程直後にいるか
1で不要なら廃止、2で固定できるならシステム、3に当たればAI候補、4に当たる部分は人に残します。1行すべてを一つの方式へ押し込めないことも重要です。「非定型メールから項目を抽出する」はAI、「必須項目をチェックして台帳へ登録する」はシステム、「原文と照合する」は人、という分担にできます。
仕分けシートへ足す列
最低限、次の列を追加します。
- 工程は必要か:必要/不要
- ルール化:高/中/低
- AI適性:高/中/低
- 第一候補:廃止/システム/AI/人/組み合わせ
- 判定理由:一文で説明
- 導入時の扱い:自動化範囲、確認者、データ連携、注意点
可能なら、使用データの所在、機密区分、件数、1件あたり時間、エラー頻度、確認者、優先度も追加します。ただし、最初から列を増やしすぎて空欄だらけになるなら、上の6列から始めます。
18工程を仕分けた例
具体的には、次のように判断しています。
- No.2「案件フォルダを作成」:命名規則と起点が固定されるためシステム
- No.4「案件情報を台帳へ転記」:非定型メールからの抽出はAI、必須チェックと登録はシステム
- No.7「検索キーワードを決める」:意味検索へ置き換えれば不要になるため廃止
- No.8・9「過去見積を検索し、候補を開く」:文書内容の意味検索と候補要約をAIへ
- No.12「原価を比較表へ転記」:基幹システムから直接表示できるため廃止
- No.13「提示単価を決める」:AIは根拠整理まで。利益、関係性、例外条件の最終判断は人
- No.14「見積書雛形をコピー」:帳票システムが最新版から生成するため廃止
- No.16「見積内容を確認」:社外提出前の責任ある確認として人に残す
- No.17「一定金額以上を承認」:金額条件による回付はシステム、承認判断は人
廃止候補は「手間が小さいから残す」ではなく、後続工程で本当に必要かを確認します。自動化によって安くなった不要工程は、運用・監視・改修の対象として残り続けるためです。
人に残す工程の承認基準や、AIを使わない範囲を社内ルールとして固定する場合は、別途設計します。
3枚目|導入後業務フローを別シートに書く
3枚目は、現状シートを上書きせず、「導入後業務フロー」として新しく作ります。現状の18工程を仕分けた結果、廃止、統合、自動化、確認工程の追加を反映します。書き換えの手順は次の通りです。
- 廃止と判断した工程を外す。ただし、元のNoと廃止理由は仕分けシートへ残す
- 同じ仕組みで連続処理する工程をまとめる
- AI・システム・人の担当を「実施主体」へ書く
- AI工程の直後へ、人の確認工程を独立した行として入れる
- 各行に入力と出力を書き、前行の出力が次行の入力につながるか確認する
- 失敗時の通知先、例外処理、差し戻し先を行番号で書く
- 現状Noとの対応と、行が増減した理由を残す
18工程が14工程へ変わる例
この例では、現状18工程が導入後14工程になりました。単純に4工程を自動化したのではありません。
- 現状No.2と3は、メール連携による「フォルダ作成・添付保存」へ統合
- 現状No.4は、AIによる情報抽出と、人による原文照合へ分割
- 現状No.7は廃止し、No.8・9をAIによる類似案件検索へ統合
- 現状No.10はAIによる条件比較へ置換し、直後に人の比較確認を追加
- 現状No.11は基幹連携で自動取得し、No.12の転記を廃止
- 現状No.14を廃止し、No.15を帳票システムによるPDF生成へ置換
- 現状No.17は、システムによる自動回付と部長の承認判断へ分ける
- 現状No.18は、宛先・添付の自動設定と営業担当の最終送信確認を組み合わせる
行数が減れば成功、というわけではありません。AIの直後に確認工程を追加した結果、行が増える箇所もあります。大切なのは、手作業の重複がなくなり、責任と例外処理が明確になることです。
AI工程は「何を作るか」まで書く
導入後の業務名へ「AIで効率化する」とだけ書いてはいけません。次のように出力物まで明示します。
- 悪い例:AIで過去見積を検索する
- 良い例:確認済み案件情報に近い過去見積3件を、類似理由と出典ファイル名付きで抽出する
- 悪い例:AIで案件情報を登録する
- 良い例:メールと仕様書から顧客名・品目・数量・納期を抽出し、原文の出典箇所を付ける
出力が具体的であれば、確認者は「何を見ればよいか」を決められます。逆に出力が曖昧なままでは、精度テストも受入条件も作れません。
確認者は役職だけで終わらせない
AI工程の直後には、誰が、何と照合し、問題があればどこへ戻すかを書きます。
| AI工程 | 確認者 | 確認対象 | 差し戻し先 |
|---|---|---|---|
| メール・仕様書から4項目を抽出 | 当日の営業担当者 | 原文、抽出値、出典箇所 | 不足時は照会工程、誤読時は抽出工程 |
| 過去見積3件を抽出 | 案件担当者 | 類似理由、仕様差、参照権限 | 候補なしは条件変更して再検索 |
| 候補3件を比較表へ整理 | 案件担当者 | 単価、数量、納期、特記事項、出典 | 不備時は検索または抽出工程 |
運用表には、可能であれば役職だけでなく、担当者名または当日の担当者を一意に決めるルールを記載します。「営業が確認」では、誰も確認しない日が生まれます。
例外・停止・手作業への戻し方も設計する
通常時の自動フローだけでは、実運用に耐えません。少なくとも次を各工程に書きます。
- 添付ファイルが破損している
- PDFが画像で文字を読み取れない
- 顧客名や品目コードを一意に特定できない
- 過去見積の候補が0件になる
- 基幹システムとの連携が停止する
- AIの出力に出典が付いていない
- 確認者が不在で期限までに確認できない
- 顧客への送信直前に金額が変更される
例外時は「担当者へ通知」で終わらせず、誰が、どの画面で、どの情報を使って手作業へ戻すかまで決めます。AIやシステムを外したときでも業務が止まらない経路が、導入初期には必要です。
全社の責任者、推進組織、モニタリング方法は、工程表とは別にガバナンスとして設計します。詳しくは生成AIガバナンス体制の作り方|責任者・推進組織・モニタリングの設計で解説しています。
3枚を部署全体へ広げる進め方
1業務の3枚が完成したら、同じ書き方で部署内の業務を棚卸しします。網羅性は、1枚の巨大なフロー図で作るのではなく、共通の雛形と粒度で業務を積み上げることで作ります。
業務一覧から抜けを確認する
部署の定例、案件、問い合わせ、申請、報告、管理業務を大区分・中区分で並べます。次の入口を使うと、担当者が思い出せない業務も拾えます。
- 定例会議、月次・週次のカレンダー
- 共有フォルダの上位フォルダ
- 使用しているシステムとExcel一覧
- メールの定型件名・振り分けフォルダ
- 業務マニュアル、チェックリスト、引継ぎ資料
- 承認ワークフローの申請種別
- 顧客・他部署から届く依頼の種類
- 月末月初、繁忙期、年度末だけ発生する作業
各業務を同じ雛形へ記入し、Noを振ります。担当者名だけで一覧を分けると、人事異動のたびに業務体系が崩れるため、大区分・中区分・小区分で業務を整理し、担当者列で現行の役割を持たせます。
仕分け会議は似た工程をまとめて行う
全行を上から一つずつ議論すると、同じ転記や同じメール作成を何度も判定します。棚卸し後に「転記」「検索」「文面作成」「チェック」「承認」「送付」など同じ種類の工程を抽出し、判定基準を揃えます。
たとえば、転記工程が部署内に30件あれば、次のように分けられます。
- 入力元と出力先が固定された転記:システム連携
- 非定型文書から項目を読む転記:AI抽出+システム登録+人確認
- 誰も使っていない集計表への転記:廃止
- 判断理由を残すための記録:人が入力し、AIは下書き支援
同じ基準で判定すると、個別最適の小さな自動化ではなく、共通機能としてまとめて実装できる候補が見えてきます。
優先順位は工程単位で付ける
AI適性が高いだけでは、着手順は決まりません。次の項目を工程ごとに評価します。
- 発生件数と1件あたり時間
- 待ち時間と手戻り回数
- 関与人数と部署数
- データの所在と利用権限
- 誤りが出た場合の影響
- 確認者を置けるか
- 既存システムとの連携難易度
- 他業務へ横展開できるか
最初は、データがすでに電子化され、確認者が決まり、失敗しても社内で止められる工程を選びます。見積作成の例なら、過去見積の候補検索や比較表の下書きから始め、社外送信や単価決定は後にします。
よくある失敗と修正方法
業務名が「見積作成」「問い合わせ対応」で止まる
中区分を業務名へ繰り返している状態です。「その作業を始めるとき、最初に何を開くか」「次にどこへ保存・入力するか」を聞き、動詞ごとに行を分けます。
現状シートに改善案を書いてしまう
現状の事実と改善案が混ざっています。1枚目には、いま実際に使っているファイル、画面、担当、手戻りだけを書きます。改善案は2枚目の判定理由と導入時の扱いへ移します。
すべてAI候補になる
AIとシステムの区別ができていません。同じ入力なら毎回同じ結果でよい工程は、まず固定ルール、ワークフロー、API連携、RPAを検討します。AIは非定型文章、表記揺れ、意味検索、要約、下書きに絞ります。
すべて人に残る
「100%正しいことを保証できるか」で判定している可能性があります。AIの出力を人が検知・修正できる工程か、下書きまでに限定できるかを確認します。それでも確認者がいない工程は、人に残す判断が妥当です。
導入後フローがツール名の一覧になる
「ChatGPT」「RPA」「基幹システム」とだけ書いても、業務は流れません。各行へ入力、処理、出力、確認者、例外時の戻り先を書きます。ツール名はその後に決めても構いません。
現状Noを振り直して対応が分からなくなる
導入後フローの行番号は新しく振って構いませんが、「現状No.2・3を統合」のように対応を残します。廃止工程も削除履歴として仕分けシートへ残します。これがないと、現場から「なくなった作業はどこへ行ったか」と聞かれたときに説明できません。
書き上げた3枚をどこへ渡すか
3枚は、次の順で確認します。
- 実務担当者:現状の工程と例外に漏れがないか
- 業務責任者:廃止・統合・人に残す判断が妥当か
- 情報システム・セキュリティ担当:連携、権限、ログ、データ持ち出しの条件を満たすか
- 実装担当者・ベンダー:入力、出力、例外、受入条件が実装可能か
- 決裁者:工程単位の費用、効果、リスクを比較して着手範囲を決める
この順に分けると、事実確認の場でツール選定が始まったり、実装会議で廃止判断が蒸し返されたりするのを防げます。
最初の1業務をどう回して次へ広げるかは、着手後の段取りとして別に整理しています。
AIが社内規程や過去資料を読む前提なら、文書の版、保管場所、閲覧権限も別途整備します。詳しくは社内文書はAIに読ませられる状態かで扱っています。
法人AI研修で支援できること
3枚を自社だけで作成できるなら、外部支援は必須ではありません。実際には、現場の説明が中区分で止まる、部署ごとに粒度が揃わない、AIとシステムの判定が混ざる、廃止候補を誰も決められない、AI直後の確認者が決まらない、といった箇所で止まりやすくなります。
当社の「生成AI業務プロセス適用研修」では、参加者が自部門の実業務をこの粒度で棚卸しし、AI・システム・人の役割を分け、導入後ワークフローと動く成果物まで作ります。「パーソナライズ研修」では、業務区分、使用システム、社内ルール、扱うデータに合わせて、雛形と演習題材を調整します。
書きかけのExcelがあれば、それを初回ヒアリングの材料として使えます。空欄があっても構いません。どこまで分解できていて、どの判定で止まっているかを見れば、研修で扱うべき論点を具体化できます。

よくある質問
業務フローが全く文書化されていなくても始められますか?
始められます。直近で完了した案件を1件選び、担当者にメール、ファイル、画面を順番に開いてもらいます。マニュアルを先に読むより、実際の操作を追ったほうが、保存、転記、照会、待ち、例外を拾いやすくなります。
どこまで細かく分解すればよいですか?
誰が、何を使い、何をして、何を出すかを一つの動詞で言える単位まで分けます。担当者、入力、出力、使用システム、自動化方法、差し戻し先のいずれかが変わるなら別行です。迷ったら細かく分け、2枚目の仕分け後に同じ仕組みで処理できる行を統合します。
AIとシステムのどちらを使うか、どう区別しますか?
条件と入出力が固定され、同じ入力なら同じ結果でよい工程はシステム向きです。非定型のメールやPDFを読む、表記揺れを含む文書を探す、要約・下書きを作る工程はAI候補です。実務ではAI抽出、システム登録、人の確認を組み合わせるケースが多くなります。
部署全体を棚卸しすると何行くらいになりますか?
業務の種類と粒度によって大きく異なり、数十行から数百行になることがあります。行数を上限で切るより、大区分・中区分・小区分で整理し、開始から終了まで抜けがないかを確認してください。画面操作のクリックを機械的に数える必要はありませんが、転記、検索、保存、確認、待ち、例外は省略しません。
経営者や部門責任者が自分で書くべきですか?
現状シートは実務担当者が操作を再現し、別の人が記入する方法が確実です。業務責任者は、廃止・統合・人に残す判断へ参加します。現場だけでは工程をなくす権限がなく、管理職だけでは実際の細かい作業が抜けるため、役割を分けます。
この記事の監修者

AI研修講師 / AI活用コンサルタント
青木 徹
AIを実際の業務成果につなげるための支援を行っています。
立命館大学大学院修了後、日本IBMに入社。製造業・海運業などの企業に対し、業務変革支援やテックリードとしてのシステム開発に携わり、企業のDX戦略を推進。その後、複数のAI・SaaSプロダクトを企画段階から立ち上げ、上場企業を中心に100社以上のAI活用・DXを支援。現在は、法人向けのAI研修や生成AI導入支援、AI顧問などを通じて、AIを実際の業務成果につなげるための支援を行っている。専門領域は、生成AIを活用した業務効率化、企業へのAI導入、AI・SaaSプロダクト開発、DX推進。専門的な内容を分かりやすく伝え、参加者が研修後すぐに実務で活用できる、実践的な研修を大切にしている。

