生成AIで効率化できる業務の見極め方|自社業務の棚卸しと優先順位づけ

この記事でわかること
- 業務は部門・業務・タスクの3階層で棚卸しし、頻度・所要時間・関与人数・入出力の形式・判断の定型度・機密度の6属性を記録した時点で完了とします
- 適用可否は反復性・言語情報量・正解検証可能性・リスクの4基準で確かめ、「効く・条件つき・効かない」の3区分に仕分けます
- 優先順位は効果(所要時間×頻度×関与人数)とリスク(誤りの影響度・機密性・関係者の広さ)の2軸で評価し、効果が見えてリスクが小さい業務から1〜3件を選びます
- ツール選定や話題の用途例の模倣から入ると、自社の業務構造との食い違いが後から見つかり、選定が振り出しに戻りやすくなります
- 優先順位を決めた後は、対象1業務・小さな範囲・事前に決めた検証基準というスモールスタートの型で試し、判断に迷う場合は外部の診断を使います
目次
生成AIの導入を検討し始めた経営者や部門責任者がまず突き当たるのは、「自社のどの業務に使えば効果が出るのか分からない」という壁です。他社の活用事例を集め、ツールの資料を取り寄せても、自社の着手対象はなかなか決まりません。帝国データバンクの調査でも、活用の課題として「生成AIを活用すべき業務の範囲」が上位に挙がっています(出典:帝国データバンク)。
ここで必要になるのは、事例をもう一件「見る」ことではなく、自社の業務から着手対象を「決める」ための手順です。
結論
生成AIで効率化できる業務は、外部の事例を眺めるだけでは特定できません。自社の業務を棚卸しし、適用可否を判定し、効果とリスクで優先順位をつける3ステップで仕分ければ、最初に着手すべき業務を1〜3件まで絞り込み、自社の判断で決められます。
この3ステップに必要な材料は、自社の業務情報だけです。棚卸しで記録した属性がそのまま適用可否の判定材料になり、判定結果が優先順位づけの入力になるため、順番どおりに進めれば「最初に着手すべき業務リスト」まで一続きでたどり着けます。
なぜ事例やツールから入ると着手する業務が決まらないのか
ツールを先に選ぶ進め方は、「導入したのに何に使うかが決まらない」という状態を生みやすくなります。ツールは手段であり、どの業務のどの作業を任せるかという問いには答えてくれないためです。実際、当社にも「Copilotなどを導入したが使われていない」という相談がよく寄せられます。
話題の用途例をそのまま真似る進め方も、自社で同じ効果が出るとは限りません。他社の事例は、その会社の業務の分け方、データの整備状況、担当者の体制という前提の上に成り立っています。同じ「議事録の自動作成」でも、会議の頻度が低い会社では削減できる時間が小さく、音声データが残らない運用ではそもそも入力がありません。
だからこそ、順番を入れ替えて、業務を先に決めてからやり方とツールを検討します。着手対象を決める手順は、次の3ステップです。
- 業務の棚卸し:部門・業務・タスクの3階層で分解し、タスクごとに6つの属性を記録します
- 適用可否の判定:生成AIの得意・不得意に照らした4つの基準で、効く・条件つき・効かないの3区分に仕分けます
- 優先順位づけ:効果とリスクの2軸で評価し、最初に着手する業務を1〜3件選びます
ステップ1:業務の棚卸しで候補を洗い出す
部門・業務・タスクの3階層で分解する
棚卸しは、部門→業務→タスクの順に下りていきます。生成AIの適用可否は「入出力が何か」「判断が定型か」というタスクの性質で決まるため、「経理業務」のような業務単位のままでは判定できません。たとえば経理部門なら、「請求業務」という業務の下に「請求書データの入力」「入金額の照合」「督促メールの作成」といったタスクが並びます。
時間のかかっている業務の洗い出しから始めるという進め方には先行例もあります(出典:エクサ)。ただし、洗い出しただけでは着手順は決まらないため、後の判定に使える形で属性まで記録しておきます。
手順は次のとおりです。
- 部門ごとに、時間を使っている主要な業務を書き出します
- 各業務を、担当者が実際に行う作業の単位(タスク)まで分解します
- タスクごとに、次の6属性を現場の担当者に確認しながら記録します
- 主要業務のタスクについて属性欄が埋まったら、棚卸しを完了として判定に進みます
タスクごとに記録する6つの属性
| 属性 | 記録する内容 | この属性を記録する理由 |
|---|---|---|
| 頻度 | 日次・週次・月次などの間隔と回数 | 削減時間の累積、つまり効果の大きさを左右するため |
| 所要時間 | 1回あたりにかかる時間 | 効果を見積もる基礎の数字になるため |
| 関与人数 | そのタスクを行う人数 | 効果が組織全体でどれだけ増幅されるかを決めるため |
| 入出力の形式 | 紙・音声・文章・表データなどの別 | 生成AIが扱えるのは言語やデータが中心で、適用可否に直結するため |
| 判断の定型度 | 手順やルールで決まるか、都度の裁量が要るか | 定型度が高いほど、AIへの指示を再現しやすいため |
| 機密度 | 個人情報・機密情報を扱うか | リスク評価と、利用できる環境の制約を決めるため |
記入例と完了の目安
記入例を表で示します。数字はあくまで記入イメージのため、自社の実測値に置き換えてください。
| タスクの例 | 頻度 | 所要時間 | 関与人数 | 入出力の形式 | 判断の定型度 | 機密度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 定例会議の議事録作成 | 週3回 | 1回60分 | 2人 | 音声→文章 | 高い | 中 |
| 問い合わせメールの一次返信 | 1日10件 | 1件15分 | 3人 | 文章→文章 | 中 | 中 |
| 取引先との個別条件の交渉 | 月数回 | 案件により変動 | 2人 | 対話→合意 | 低い | 高 |
ステップ2:適用可否を4つの基準で判定する
4つの判定基準
ステップ1で記録した属性を、生成AIの得意・不得意に照らして読み替えます。判定に使う基準は次の4つです。
| 判定基準 | 参照する属性 | 「効く」寄りと判断できる状態 | この基準を使う理由 |
|---|---|---|---|
| 反復性 | 頻度・判断の定型度 | 同じ型の作業が繰り返し発生する | 一度作った指示ややり方を再利用でき、改善が蓄積するため |
| 言語情報量 | 入出力の形式 | 入力も出力も文章・表データが中心 | 生成AIが処理できるのは言語やデータで、物理的な作業には直接効かないため |
| 正解検証可能性 | 判断の定型度・担当者の習熟 | 出力の正誤を担当者が短時間で確認できる | 生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあり、人の確認を前提にする必要があるため |
| リスク | 機密度 | 機密データに依存せず、誤りが出てもすぐ修正できる | 扱う情報の機密度と誤りの影響が、利用できる環境と運用ルールの制約を決めるため |
効く・条件つき・効かないの3区分に仕分ける
4基準に照らして、タスクを3つの区分に仕分けます。この仕分けは精密な採点ではなく、候補を残すかどうかの足切りとして使います。
- 効く:4基準をおおむね満たすタスクです。議事録の下書きや定型文面の作成のように、言語中心で反復があり、正誤をすぐ確かめられる作業が典型です
- 条件つきで効く:言語中心ではあるものの、機密度が高い、または検証に専門知識が要るタスクです。利用環境の整備や確認体制とセットであれば候補に残せます
- 効かない(後回し):入出力が物理作業中心のタスクや、都度の高度な判断・交渉が核になるタスクです。生成AI以外の改善策も含めて扱いを再検討します
なお、この判定はあくまで候補の絞り込みです。「効く」に仕分けた業務がすべて期待どおりの効果を生むとは限らず、実際の効果は着手後の小さな検証で見極めます。
ステップ3:効果とリスクの2軸で着手順を決める
効果は棚卸しの数字で概算する
候補が複数残ったら、効果とリスクの2軸で並べ替えます。効果は次の式で概算します。
月間の削減余地の目安 = 1回あたりの所要時間 × 月間の実施回数 × 関与人数
棚卸しで記録した属性をそのまま使えるため、追加の調査なしで候補同士を比較できます。この数字は着手順を比べるための概算であり、導入後の削減効果を約束する値ではありません。どれだけ削減できるかは、着手後の検証で確かめます。
リスクは3つの要素で見る
リスクは次の3つで大小を見ます。いずれも、うまくいかなかったときに立て直すコストを決める要素だからです。
- 誤りの影響度:出力の誤りが社外や金銭・契約に及ぶか、社内の下書き段階で止まるか
- 機密性:個人情報や機密情報を入力に使う必要があるか
- 関係者の広さ:やり方の変更に巻き込む部門・人数がどれだけ多いか
4象限で着手順を決める
効果とリスクの2軸で4象限に置くと、それぞれの扱い方が決まります。
| 区分 | 効果 | リスク | 扱い方 |
|---|---|---|---|
| 最初に着手 | 大きい | 小さい | ここから1〜3件を選び、スモールスタートの対象にします |
| 型ができてから展開 | 小さい | 小さい | 最初の1件で作った進め方を流用し、2巡目以降に回します |
| 体制を整えてから | 大きい | 大きい | 利用環境・確認体制・社内ルールの整備とセットで計画します |
| 当面見送り | 小さい | 大きい | 生成AI以外の改善策も含めて再検討します |
「効果が大きくリスクが小さい」象限に1件も残らない場合は、リスクの中身を分解します。たとえば機密情報が理由なら、機密部分を除いた範囲だけで試せないかを確かめると、条件つきの候補を最初の1件に引き上げられることがあります。
見極めでやりがちな失敗と回避策
見極めの失敗の多くは、手段や他社の答えから入り、自社の業務情報を後回しにするという順番の逆転から生まれます。代表的な失敗と回避策を表に整理します。
| よくある失敗 | 起きること | 回避策 |
|---|---|---|
| ツール選定から入る | 導入後に「何に使うか」が宙に浮き、利用が広がらない | 着手する業務リストを先に確定し、業務の要件からやり方を逆算します |
| 話題の用途例をそのまま真似る | データの整備状況や頻度などの前提が違い、期待した効果が出ない | 用途例は判定基準の当てはめ例として参照し、採否は自社の棚卸し結果で決めます |
| 大きな基幹業務から始める | 関係者と例外処理が多く、検証がいつまでも終わらない | 効果×リスクの象限から、小さく検証できる業務を先に選びます |
| 現場に聞かずに机上で選ぶ | 頻度や所要時間の見積りが実態とずれ、優先順位ごと狂う | 棚卸しの記入は現場の担当者と行い、数字を実測に寄せます |
優先順位を決めた後の最初の一歩
最初の一歩は、選んだ業務での小さな検証です。範囲と判断基準を先に決めておくと、「試してみたが、良し悪しが分からない」という結末を避けられます。
- 対象は1業務:優先順位の最上位から始め、残りは結果を見てから広げます
- 範囲は小さく:1チーム・1工程など、影響と関係者を見渡せる範囲に区切ります
- 検証基準は先に:所要時間の変化、やり直しの回数、担当者の負担感など、何がどうなったら広げるかを着手前に言葉にします
- 結果で次を決める:広げる・条件を変えて続ける・戻すの三択で判断し、うまくいった型を2件目以降に流用します
判定や優先順位づけに自信が持てない場合は、外部の視点を挟む方法があります。他社がどのような業務でAIワークフローを形にしたかというBefore/Afterのイメージは、自社の判定の当てはめが妥当かを確かめる材料になります。
AI成果物事例集
他社がどの業務でAIを形にしたかを確かめる
業務で使えるAIワークフローのBefore/AfterをまとめたPDF冊子です。適用可否の判定を当てはめる材料としてお使いいただけます。
この記事の監修者

主任講師 / AI活用コンサルタント
小柴 鷹介
業務で動くところまで、一緒に考える講師です。
京都大学大学院修了後、株式会社リクルートに入社。国内最大級の不動産プラットフォーム「SUUMO」のプロダクトマネージャーとして、データ分析・AI活用を取り入れたプロダクト改善を主導。その後、複数のAI・SaaSプロダクトの企画・開発をゼロから立ち上げ、「AIを業務で本当に使える形にする」ことを一貫して追求。現在は法人向けにAI活用戦略の立案から研修設計・実施まで手掛け、非エンジニアでも現場でAIを活用し始められる実践型プログラムを提供している。
